推しポケモンを最初に知ったとき、その図鑑説明文も一緒に覚えていませんか?
「よなか ひとの かげに もぐりこみ すこしずつ たいおんを うばう。ねらわれると さむけが とまらない」「子供に 催眠術を かけて どこかへ 連れ去る 事件があった」——。これ、全部ゲーム内データベースの一文です。今回は初代から『LEGENDS Z-A』まで36本、日本語の図鑑説明を全部集めて読む調査をやって、8231文面をそろえました。よく紹介される定番はほかに任せて、この記事では埋もれているほうの文面を、テーマごとに紹介していきます。
全ポケモン
本編+レジェンズ
1996〜2025年の30年分
目次
ヤドンのしっぽネタ、14年かけて回収される
まずは、読むと笑ってしまう系統から。こういう文は、生態の解説のあいだに普通に混ざっています。筆頭はヤドンです。
尻尾を 川に 入れて エサを 釣っているが そのうち なにを しているのか 忘れてしまい 川べりに 寝そべったまま 1日を 終える。
ヤドン — ルビー(第3世代)
釣りをした本人が、釣りをしていたことを忘れて寝てしまった。なお、この話には続きがあります。
ヤドンの尻尾を 干したあと 塩水で 煮込んだ 料理は アローラの 家庭の 味。
ヤドン — ムーン(第7世代)
初出から14年、しっぽネタは回収されました。
ほかにも、集計の途中で笑った一文はまだあります。まずはコイキング。弱さの描写は初代からの定番ですが、『ダイヤモンド』の図鑑はこう投げてきました。
世界一 弱いと 言われる コイキングが なぜ 生き残って いるのか 誰も 分からない。
コイキング — ダイヤモンド(第4世代)
弱いことは30年間言い続けているのに、生き残りの理由だけは、いまだに分かっていません。なお、ルビーの図鑑は「なぜ 跳ねるのか 調べた 研究者が いるほど」と書いていたので、調査は行われています。あの一文が、その結果です。
2匹 以上 集まると 我慢 比べを 始めるが 空腹を 我慢して しまうので ソーナンス トレーナーは 注意が 必要。
ソーナンス — ルビー(第3世代)
我慢の仕方も意地も本物なのに、食事管理だけは飼い主の担当です。倒れないように気をつけてください。
眠っているときも テレポートして 身を 守っているが 目覚めたときに どこに いるか 分からず あわてる。
ケーシィ — ムーン(第7世代)
1日18時間眠る超能力使いは、眠ったままテレポートして危険を回避します。守りは完璧です。ただ、起きたあとの身の振り方がまったく完璧じゃない。
図鑑説明の面白さは、ネタが何年もかけて回収されるところにあります。そして同じ図鑑は、ごはんの話も書いています。
マイナス50度の息で、獲物を凍らせてから食べる
図鑑説明は生態の記録なので、食べ物の話がとても多いのですが、その中身がひと癖もふた癖もあります。
群れで 助け合って 生きている。マイナス 50度の 息で 獲物を しっかり 凍らせてから 食べる。
ロコン — スカーレット(第9世代)
食事の作法として、「冷凍保存」の工程が入っています。
ほとんどの 農家は ディグダを 育てている。ディグダが 穴を 掘った 土地は ほどよく 耕され 美味しい 野菜が つく
ディグダ — ルビー(第3世代)
食の話だと思ったら、いつのまにか農業の話になっています。ポケモン世界の食卓を、ディグダが支えています。
世界一 大きな 花びらで 獲物を おびき寄せ 毒の 花粉を 浴びせかける。動けなくなった 獲物を 捕まえて 食べる。
ラフレシア — サファイア(第3世代)
「世界一美しい花」というより、「世界一大きな捕食者」の紹介として読めてきます。サファイアの図鑑は、この事実を淡々と書きました。
タマゴは 栄養満点で 味も 抜群。高級な 食材として 扱われる。
ラッキー — ソード(第8世代)
しあわせをもたらすはずのポケモンについての一文が、食材の品評で終わっています。しかも評価は高い。
ごはんの次は、お仕事の話です。
眠らない脳が、24時間あたりを見張り続ける
図鑑には、ポケモンの「働きぶり」を評価する文面もあります。勤務態度の記録です。
進んで 重労働を 手伝う。自分に とっての いい 筋力 トレーニングになると 知っているから。
ゴーリキー — ムーン(第7世代)
報酬は筋肉です。
土砂崩れや 山火事で 山が 荒れると せっせと 土を 運び 木の 苗を 植えて 自分の 縄張りを きれいに 掃除する。
ボスゴドラ — サファイア(第3世代)
山火事のあとの植林を、自分の縄張りの掃除としてやっています。森林ボランティアの記録にしか見えない一文です。
尻尾の 脳は 考えごとが 出来ないほど 小さいけど 眠らなくても 平気 なので 24時間 あたりを 見張り続けて いるぞ
キリンリキ — サファイア(第3世代)
「考えごとができないほど小さい」を長所として雇用している図鑑です。
手下の コラッタに 食べ物を 集めさせる。栄養 たっぷりで 美味しい ものだけを いただくのだ。
ラッタ — Let’s Go ピカブイ(第7世代)
一方で、手前は一切働かないボスもいました。図鑑は組織の内側まで観察しています。
そして図鑑は、けっこう本気で調査もしています。
モンスターボールの中でも、怒っているらしい
説明文のなかには、研究者の調査結果がそのまま載っているものがあります。読んでいると、図鑑が研究レポートの顔をのぞかせます。
別名 アルキメンデス。夜になると 2本の 根っこで 300メートルも 歩くという。
ナゾノクサ — 赤・緑(第1世代)
初代から、なぜ「アルキメンデス」という別名なのかは説明がありません。毎晩300メートル歩く記録だけが残っています。
甲羅の 噴射口の ねらいは 正確。水の 弾丸を 50メートル 離れた 空き缶に 命中させる ことが できるぞ。
カメックス — ルビー(第3世代)
「命中させる ことが できるぞ」の、いちいち確認したであろう空き缶のテストも気になります。
ある研究者の 学説では モンスターボールの 中でも オコリザルは 怒っているらしい。
オコリザル — ムーン(第7世代)
モンスターボールに入っても怒り続けている、というのが公式の学説です。
そこらの道端に いくらでも いる。ヒマな 学者が 数えてみたら 1つの道路に 100匹 いた。
イシツブテ — ムーン(第7世代)
「ヒマな学者」を図鑑が認定しているあたり、研究機関としての看板を疑いたくなります。
人間のような 言葉を 話すが まだ なにを言っているか 不明で 現在 研究されている。
ルージュラ — 赤・緑(第1世代)
人間の言葉を話しているらしい。何を言っているかは不明、研究中。初代の図鑑は、この事実をサラッと置いていきました。
変身は 完璧なのだが 笑わされて 力が 抜けると 変身は 解けてしまう。
メタモン — 銀(第2世代)
完璧な変身能力の唯一の弱点が「笑わせること」。変身中のメタモンを笑わせにいく体験は、ゲーム内では一度もできないのですが、図鑑だけが知っています。
調査レポートの隣には、言い伝えの形をした説明文も並んでいます。
川を汚した人間を、水中に引き込む昔話
図鑑の説明文には、科学的な生態記録と昔話の境界がありません。二人は隣り合って載っています。
川を 汚した 人間を 水中に 引き込み 連れ去る 昔話が 残されている。
ゴルダック — シールド(第8世代)
構図そのままに、カッパの話です。ゴルダックの愛嬌のある顔と合わせて読むと、昔話の怖さが際立ちます。
雪山の 遭難者を ふもとへ 導き 助けるが 山を 荒らす 不届き者には 容赦しない。
キュウコン — シールド(第8世代)
雪女の話の、良い版本。山を守る存在としての解釈まで書かれています。
水の分子と 酷似せし細胞 検出す。潜水中 姿 隠すは これが理由と 推察。人魚伝説の正体と 見たり。
シャワーズ — Pokémon LEGENDS アルセウス
人魚伝説の正体を「推察」する一文。この文語体の図鑑については、記事の一番最後で詳しく扱います。
昔話のついでに、少し静かな話も挙げておきます。
捨てられたぬいぐるみは、捨てた子供を探している
8231文面を読んでいると、読み返したときに少し静かになる一文があります。有名どころの「死に別れた母親」の話はほかの記事に譲るとして、集計の過程で見つけたものから。
捨てられた ぬいぐるみに おんねんが 宿り ポケモンになった。自分を 捨てた 子供を 捜している。
ジュペッタ — ダイヤモンド・パール(第4世代)
鏡の 前に 立って 必死に 折れた 首を 直す。なかなか 直らないので 中身は 泣いている。
ミミッキュ — ウルトラサン(第7世代)
ピカチュウの変装で知られるミミッキュですが、この一文は人気ネタとしてより、ずっと静かに読めてしまいます。
ボロボロなので 誰も 捕まえない。まずそうなので 獲物にも されない。結果的に どんどん 増えていく。
ヒンバス — ウルトラサン(第7世代)
人気がないことと、まずいことを、生存戦略としてまとめ上げた一文です。負け筋を全部武器にしているように読めなくもない。
水の 中で 口を 開けて エサが 偶然 飛び込んで くるのを ただただ 待っている。動かないので あまり お腹が 空かないのだ。
ヌオー — ルビー(第3世代)
「ただただ待っている」のんきな一文ですが、よく読むと動かないせいでお腹が空かない、という驚きの省エネ生態です。
メガシンカで 子どもが 成長。負けん気ばかりが 強く 母親は 将来が 少し 心配。
ガルーラ — ムーン(第7世代)
子の成長を素直に喜べない母親の一文。進化の話のはずが、教育の話になっています。
人間が 科学の 力で つくりだした。人工 知能を 持たせたので 新しい 仕草や 感情を ひとりで 覚えていく。
ポリゴン2 — サファイア(第3世代)
2002年の時点で、図鑑は「ひとりで覚えていく人工知能」の存在を書いていました。
前触れもなく 突然 怒る。暴れまくって 誰も いなくなると 孤独に 耐えられなくて また怒る。
マンキー — サン(第7世代)
怒ると孤独になり、孤独だとまた怒る。最後の「また怒る」で一周して終わる一文です。
しんみりの隣には、やはり怖い話も並んでいます。
108個の魂が、要石につながれている
怖い系の説明文は「連れ去り」や「命を奪う」ばかりではありません。図鑑の世界観そのものが重くなる一文もあります。
108個の 魂が 集まって 生まれた ポケモン。要石の ひび割れに つながれている。
ミカルゲ — ダイヤモンド(第4世代)
飲まれることで 体に 入り込み 内側から 生体エネルギーを 奪うのだ。その味は 不味い。
ヤバチャ — バイオレット(第9世代)
怖い話の末尾に「その味は 不味い」が付く。煎じた紅茶ポケモンに乗っかられる話なのですが、評価まで書かれています。
悲しい 気持ちの 夜は 1人で 外に 出ると 危険。ゴーストに 捕まり 家に 帰れなくなる。
ゴースト — ウルトラムーン(第7世代)
「悲しい気持ちの夜」が危険因子として指定されているあたり、図鑑の世界では感情の管理も重要なようです。
ここまで、文面を並べてきました。最後に、数字もひとつだけ見ておきます。ここまで挙げたような文面が、ソフトごとにどれだけの密度で書かれてきたのか。
ソフト別・物騒度ランキング
「死/命/呪い/霊魂/連れ去り」まわりのキーワードをどれだけ含むかをソフトごとに測りました。対象は掲載100種以上のソフト。上位はこうなっています。
※率=「死/いのち/命/呪い/霊魂/連れ去り系」キーワードのいずれかを含む文面÷掲載文面数(集計2026-08-27時点)。集計対象は本編36本+『LEGENDS』2本で、ポケモンピンボール等の外伝は含まない。同じ文面が複数のソフトに載る場合はそれぞれでカウント(そのソフトで実際に読める文面すべてを母集団とする)。かな・漢字両表記を照合し「必死」「死角」等の無関係語は除外。10位以下と詳細数値は省略。
注目したいのは分布の形です。上位に特定の時代が偏っていない。2006年、2010年、2016年、2019年、2022年と、30年のあちこちから自然に名前が出てくる。物騒な説明文は「最近の傾向」ではなく、作り続けてきたあいだ常に底流として流れていた——まずはこれがひとつ目の答えです。
そして対極の「いちばん穏やかな図鑑」も挙げられてしまいます。青(0.7%)・クリスタル(0.8%)・リーフグリーン(0.8%)。同じカントー地方のポケモンでも、『青』と『サン』では読んだあとに残る怖さがずいぶん違っていたはずです。
そして1位のソフト。その図鑑はなんと、全体が文語体で書かれています。
なぜ古風な図鑑が一番物騒なのか
2022年登場の『Pokémon LEGENDS アルセウス』。昔のシンオウ地方が舞台の作品で、図鑑の口調も明治の博物誌のような和文調です。その丁寧で優雅な文体が、集計では30年で一番物騒という結果になりました。
頬に 電気を溜めし 袋を 有す。森林を 棲み処とし 硬き 木の実は 電撃で 焼き 食べる 知恵者なり。
ピカチュウ — Pokémon LEGENDS アルセウス
なんとも朗らかな一文です。では、ページをめくります。
壁をすり抜け 何処にでも 姿 現す 恐ろしき悪霊。舌で 舐められし者 日に日に 衰弱し 死に至るとの噂。
ゴースト — Pokémon LEGENDS アルセウス
寿命 尽きたる者の 傍らに 来たりて 魂を 黄泉へと 誘う。まれに 余命 有る者の 魂を 連れ行く 過ちあり。
ヨノワール — Pokémon LEGENDS アルセウス
ヨノワールのこの一文は、キーワード密度の機械計測でも8231文面のなかで最高値でした。言葉遣いはあくまで上品なまま、内容はずばり「死」の描写です。
幼子 惑わし 彼岸へ 連れ去ると 伝えられし ポケモン。人魂より 転生したと 噂あるも 真偽不明なり。
フワンテ — Pokémon LEGENDS アルセウス
子どもを連れ去る系譜は初代以来ずっと続いています。ただ文語にすると、事件の報告書よりも「昔から伝わる注意話」に聞こえるのが面白いところです。同じ内容でも、怖さの質が変わります。
なぜアルセウスが一番怖いのか
思いつく理由は二つあります。ひとつは舞台の時代です。ポケモンとの付き合いが生活のすべてだった頃のシンオウでは、死そのものが身近な話題でした。だから「黄泉へと誘う」と正面から書ける。
もうひとつは文語の効果です。「〜の噂」「〜なり」と結ぶ文体には、誰かの体験談を聞いている距離感があります。断定を避けるぶん、かえってこわく響くことがあります。
開発陣が意図して怖くしたのか、文体がそう見せるのかまでは分かりません。ただ数字のうえでは、確かに一番物騒でした。
結論
図鑑説明の怖さは、時代とともに薄れる流れではありませんでした。30年間ずっと文面の底を流れ続け、そのピークに立ったのがいちばん格式ばった文語体の一冊です。
- 日本語の図鑑説明は全部で8231文面。ピカチュウだけで29文面、書き続けられている
- 食事・仕事・調査・昔話・人情話まで、図鑑は30年かけて生活のすべてを書いてきた。紹介しきれなかった文面がまだ数百ある
- 物騒度ランキング上位はLEGENDS アルセウス(8.8%)・ウルトラムーン(7.1%)・ムーン(6.2%)。ただし「死」「連れ去り」自体は初代から普通に存在する
- いちばん穏やかなのは『青』(0.7%)。いちばん重いのは文語の『アルセウス』
最後にひとつだけ実験してみてください。推しの最新の説明文と、初出当時の文面を並べて眺める。同じ名前で30年ぶんの変化が観察できます。図鑑文を一気にたくさん読みたい人にはポケモン図鑑説明クイズがおすすめ。データ統計めの記事ならタイプ人口統計もどうぞ。
今回は8231文面を扱いましたが、新しいソフトが出るたびに文面は増えていきます。そのうちまた数えてみましょう。