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雲霧仁左衛門
2020年は著者没後30年。
再び味わいたい、池波正太郎の世界。
神出鬼没、変幻自在の怪盗・雲霧。政争渦巻く八代将軍・吉宗の時代、
狙いをつけた金蔵をめざして、西へ東へ盗賊一味の影が走る。
神出鬼没・変幻自在の怪盗・雲霧仁左衛門。政争渦巻く八代将軍・吉宗の治世、江戸市中で、一人の殺傷もなく一万両を盗み出すという離れ業を成し遂げた雲霧一味は、次の狙いを尾張・名古屋の豪商・松屋吉兵衛方に定める。雲霧の命により、七化けのお千代は、四年前に妻を亡くした吉兵衛に近づく。金蔵をめざして、江戸から名古屋へ盗賊一味の影が走り、火付盗賊改方の一団が追う。
本文より
その折、木鼠の吉五郎をしたがえてあらわれた雲霧仁左衛門は、
(これは、雲霧のお頭ではねえらしい……)
と、伝次郎がおもったほどだ。
中肉中背の均整のとれた体軀を、りゅうとした羽織・袴(はかま)につつみ、立派な小刀をたばさみ、一分もすかさぬ武家の風体であった。
六年前のそのとき、雲霧仁左衛門は、まだ四十前のはずであったが、隆(たか)い鼻すじや、笑いをふくんだ切長の両眼のおだやかな光や、細く長く、しかも毛すじのはっきりとした役者のような眉や、
「わしが、仁左衛門。これからは、よろしゅうな」
落ちつきはらった声を伝次郎へかけた様子は、どう見ても、どこぞの大名家の留守居役ででもあるかのように見えた。……(本書「無断借用」より)
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